無題
夫が入院して、はや10日。
内視鏡で失敗、夫は今月中に退院できないと、絶望感で打ちのめされたようだが、外科の先生の判断で、昨日緊急手術となった。
術後の夫の様子に、手術慣れしてない私は怖くて震える。
たくさんの管につながれた夫を見て、何をしていいかわからず、ただ夫のそばにいるだけ。
殺風景なICUは、心を潤すものもなく、無機質な機会がただこぽこぽと音を立てているだけだった。
時折、アラームのようなどきっとするブザーがなって、夫の手を握る。
このまま、夫を失ったらどうしようと、不安でいっぱいになる。
でも本当に不安で、怖くて、しかも痛くて辛いのは夫なのだ。
夫の髪をなでる。
顔を冷たいタオルで拭く。
手を握る。
足をさする。
こんなに蜜に夫をいたわったことがあったかしら。
元気なのが当たり前で、ときどき喧嘩して、不平や不満を言ったり、ただそばにいてくれることに対する感謝など、私は忘れてしまっていたのではないだろうか。
夫を愛しているなんていえるほど、十分愛情表現していただろうか。
神様、どうぞ私から夫を奪わないで下さい。
今までの私の態度を改めます!
これからは夫を愛していると身体全体で夫に伝えます!
夫は私の考えていることなど、知る由もない(それどころではない)
ただ、心配そうな私の顔を見ながら、手を強く握り返す。
温かい夫の手。
入院してずっと冷たかった夫の手。
高熱のせいだけど、いつものように温かい。
と、夫は握っている私の手を放し、身体のあちこちを触っている。
「冷てぇ。お前のカラダ、冷たくて気持ちいい!」
冷房で冷え切った私の首筋や、二の腕など、冷たいところを触っては、熱を冷ましているようだ。
夫が戻ってきた・・・
辛いながらも、普段の夫のことば。
「・・行くぞ・・ロケに。・・・8月に」
ええっ!無理よ!、とたしなめるが、夫は首を振る。
「・・・いや行くんだ・・・」
仕事にいくという夫の意気込みが、こんなにも切ないなんて。
夫と出合った頃、この人ならどんなときでも、やりぬくことも、生き抜くこともできるだろう、と漠然と感じた彼の強さが、今は確信できる。
「必ず幸せにします。何も心配しないで」
彼が結婚前に手紙に書いてくれたやさしい言葉を思い出し、ありがとう、というと、夫は照れ笑いし、私の手を強く握ってさよならしてくれた。
夫が一瞬、学生の頃の姿に戻ったような気がした。
あの頃より、彼をもっと愛している私も手を握り返し、そしてさよならしてICUを後にした。
入院している夫に会いに行く毎日がときめいています。
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